トヨタ bZ4X 「可能性を秘めた真面目なEV」の専門家レビュー ※掲載内容は執筆日時点の情報です。

まるも 亜希子
まるも 亜希子(著者の記事一覧
自動車ジャーナリスト
評価

3

デザイン
5
走行性能
4
乗り心地
5
積載性
5
燃費
3
価格
3

可能性を秘めた真面目なEV

2022.8.18

年式
2022年5月〜モデル
総評
今後トヨタが本腰を入れていくと宣言したEVの第一弾モデルとしては、ぶっ飛んだ未来的な演出のような、大きな驚きが感じられなかったところは少し残念でした。でも、外からは見えないメカニズムの部分には、革新的な技術がたくさん詰まっており、従来のEVの弱点をなるべくクリアし、ユーザーにいいクルマを届けたいという想いは感じられます。運転のしやすさ、使い勝手も真っ当に作られています。国ごとの差をなくし、コストを抑えて、まずはEVを普及させるという使命を背負った1台です。
満足している点
全長4690mm、全幅1860mmというボディサイズにしては、小回り性能が高いということ。最小回転半径はRAV4と同等とのことでしたが、ホイールベースを160mmも延ばしたとは思えない、Uターンや切り返しのしやすさです。これは、前輪の切れ角を大きく取るために邪魔なエンジンがなくなったことだけでなく、モーターとトランスアクスルとインバーターを完全一体化した「eAxle」を開発し、コンパクトにフロントに置くことができたことや、従来はバッテリーパック内に搭載されていた機器をESU(Electricity Supply Unit)に統合し、プラットフォーム中央に一列に配置したことなどで、大きく省スペース化できたことによる恩恵です。
不満な点
ワンモーショングリップが装備されれば、それが未来的な走行体験として目玉になると思うのですが、今のところ日本仕様にはそれがないこともあって、EVらしい驚きや、見たこともないような新しさ、というのが少ないと感じました。逆にいえば、グローバルで販売するモデルということですごく真面目に、各国の基準に合うようオーソドックスに作っているEVだなという印象です。
デザイン

5

全体的に攻めてるデザインですが、ただ攻めてるだけではなく、新しい工夫が随所にあります。例えば、正面から見るとフロントガラスが縦に大きく伸びているように見えて、実はボンネットのガラス側にブラックの樹脂パーツを配置して、ガラスとの一体感を出したことによる効果。フェンダー部分の樹脂パーツがヘッドライト下まで回り込んでいたり、リヤフェンダーまわりの樹脂パーツがあえてカクカクとしたデザインにしてあるのも斬新です。また、ロアグリルやバンパー両端に空いた穴、真ん中がスプリットになったリヤリップスポイラーなど、空気抵抗を減らして航続距離を最大限に稼ぐ工夫や、ダウンフォースで走りの安定性向上などを狙ったところもあります。
走行性能

4

FFモデルは、発進から何か目に見えないモノに押し出されていくような、独特の加速フィール。下り坂では、アクセルの力を抜くだけでブレーキペダルを踏んだような減速感が得られます。前のめりになるような違和感は小さく、パドルシフトで減速した時のようなダイレクト感の方が強くスポーティな印象です。4WDはドッシリとした重厚感が強めで、レスポンスもやや穏やかでコーナリングの安定志向が印象的。オフロードの走破性を高める「X-MODE」があるので、雪道などをよく走る人には4WDがおすすめです。当初、目玉とされていた新世代のステアリング、左右に大型のグリップがついたような新デザインの「ワンモーショングリップ」が未装着だったのが残念。それがそろってから、再度試乗したら本当の魅力が見えてくると思います。
乗り心地

5

さすが、71.4kWhの大容量バッテリーを床下に搭載していることもあって、どんなシーンでも安定感は抜群。後席でもフラフラと大きく揺れることなく、どっしりと安心して乗車できました。ノイズもよく抑えられていて、室内の静粛性が高く、足元スペースもゆったり。バッテリーパックを車体骨格の一部として活用し、高いねじり剛性が確保できたことも、しっかりとした上質な乗り味に貢献していると感じました。走りはスポーティですが、EV版のラグジュアリーSUVといえます。
積載性

5

同クラスのSUVのラゲッジと比較しても、バッテリー搭載の影響はまったく感じられない大容量です。フロアの地上高がやや高めかなというところはありますが、アジャスタブルデッキボードで少しだけフロアの高さも変えられるようになっており、積載性は高いと思います。後席は6:4分割で前倒しが可能。継ぎ目なくフラットなスペースになります。
燃費

3

一充電での航続可能距離は最大559km。単純計算では電費は約7.8kWhということになり、なかなか優秀な数値なのですが、実際にドライブした感覚ではアクセルペダルを強く踏んで強烈な加速を繰り返していると、あっという間にバッテリーが減っていきます。車重も2tくらいあるので、上り坂などアップダウンが大きい道を走る時には、減りが早いことも予想できます。SUVなのでアクティブに使う人も多いと思いますが、余裕をもって早めに充電しながら走るといいでしょう。
価格

3

サブスクリプション(リース)のみで、月額8万円オーバーというのはなかなか手が出しにくい価格ではないでしょうか。ただ、車検や修理、保険まで含まれていると考えると、少し見方が変わってくると思います。年間の走行距離が長い人なら、ガソリン価格が高騰している中、電気代の方がコストが抑えられる可能性も高いです。5年目以降は月額料金が段階的に下がり、解約金も0円になるので、長く乗りたい人の方がメリットが大きいと思います。
まるも 亜希子
まるも 亜希子
自動車ジャーナリスト
映画声優、自動車雑誌編集者を経て独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員日本自動車ジャーナリスト協会会員。YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」、「おっさん on boad」にも出演中。
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